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セキュリティコラム

セキュリティコラム:詳細

栃木県那須町の雪崩事故に関して

2017年03月31日

3月27日栃木県那須町スキー場付近で起きた雪崩により、登山講習中の高校生ら8人が死亡する事故が起きた。先生の指導を信じ事故にあった高校生の無念さ、そしてご家族の悲しみは計り知れない程大きなものだ。ご本人のご冥福を祈り、またご家族に心からお悔やみを申し上げたい。

ただ冬山を愛し少しは雪山に関する知識を有する筆者としては、ステレオタイプ的な報道に関して違和感を覚えている。先ず雪崩注意報下での訓練であるが、これは問題にならない。何故なら4月に入れば多雪地帯では雪崩注意報は出っ放しである。その中で沢山の登山者が雪山に登っている訳で、注意報が即雪山入山中止には結びつかず、参考程度のものだ。次に雪山登山の装備品の一つである遭難者捜索用のビーコンを持っていなかった点も、あり得る事だ。今回多分初歩的な雪山訓練で、雪崩遭難者捜索訓練でなかったし、ビーコンは非常に高価な装備なので、全員分を用意するのは財政的に厳しい。今回ビーコンを必要としない安全と思われる場所での、初心者向けの訓練を想定していたのであろう。

最大の問題は、指導者の知識だ。指導者はあの場所では雪崩は起きないと思っていたとの事であるが、それは大きな間違えだ。20年以上山の経験があると報道されているが、雪崩はそもそも遭う事が殆ど無いので、経験は役立たない(経験できない)。一方雪崩は何処でも起きる。特に事故現場上部の斜面はのっぺりした樹木の無い急斜面なので、雪崩が起きれば事故現場に雪崩は到達する。樹林帯は比較的安全だが、上部から雪崩れて来れば樹木も何の役にも立たない。加えて事故当日にかけて表層雪崩の非常に起きやすい天候だったのは、雪山登山者からすれば常識的な事だ。指導者は果たして雪崩に関して十分な知識を持っていたのであろうか。それが最大の疑問だ。知識があれば、登り始める前に雪崩の発生可能性を調べる弱層テストもやっていた筈だし、その結果事故現場付近に足を踏み入れる事はなかった筈だ。

更に問題は、行政による「冬山登山禁止」の決定だ。雪山は美しい。山に登る人間であれば、雪山の魅力に取りつかれる人間は多い。禁止されようとされまいと、魅力に取りつかれた人間は必ず登りに行く。学校としては責任を逃れる事ができるかも知れないが、それは本末転倒だ。雪山登山を奨励する必要は無いが、登ろうとする人間に正しい知識と恐ろしさを教える事こそ教育の取るべき道だろう。

筆者紹介

サイバーセキュリティコラム筆者 岸田明コラム筆者 岸田明

岸田 明(きしだ あきら)

KMSコンサルティング代表。
大手IT企業や参議院事務局など、第一線でサイバーセキュリティ対策に携わってきたこの道のエキスパート。 2016年3月よりキューアンドエーワークス株式会社の顧問に就任。